鬼が笑う話

昨年の春、電話での特典会に参加した。

2020年、四月の半ば。いろんなイベントやライブがなくなりはじめた冬の終わりから、しばらく過ぎた頃だった。

 

「前回直接お話ししたのはカウコンだったけど、季節が変わって春になっちゃいましたね」というようなことを言ったら、電話の向こうの推しは「そうだね、しばらくイベントの予定は何もないから、このまま夏とか……もっと先になっちゃいそうだね」と返した。

ビデオ通話ではなくて普通の電話だったから、この時の彼の表情まではわからない。顔を見て接触していた時と変わらない、いつものように穏やかな口調だった。

推しは、今後もっと長くこの状況が(あるいはもっと悪化した状況が)続くと想定しているのだろう。「夏とか」と言った後のしばらくの間に、そんなニュアンスを感じた。

 

秋以降は少しずつ有観客*1のライブも開催されたものの、2020年末のカウコンは配信のみで開催された。

年末年始だからって自宅で家族と過ごさなきゃいけないわけじゃないんだ、っていい歳して初めて実感した一年前が、ずいぶん昔のことのようだった。

 

そうして年が明けて、あれから季節は一巡り。つい先日、数か月ぶりにビデオ通話式の特典会に参加した。

最近の配信ライブの話をしていて、「もう春ですね」と口をついて出た。対面じゃない接触でこれを言うのは二度目だ。

他にもう少し言葉をつなごうとしたけど、短い時間ではうまく伝えられそうになくてやめた。あんなイベントもあったね、こんなライブもあったね、というだけでは到底語り得ない日々だ。そう思った。

 

最後に行った現場から丸一年が経とうとしていることにも、私は触れなかった。

暑いと言ってもいいくらいに暖かい、それは二度目の春だった。

 

*1:この「有観客ライブ」っていうレトロニムは目にする度に言いようもなくやるせなくなるので好きではない。