「ご本のおばさま」とブックサンタ

ブックサンタという、子ども向けのチャリティーに参加した。

ブックサンタは「厳しい状況に置かれている全国の子どもたち※に本を届けること」を目的に2017年スタートした、全国のNPOと書店が連携したプロジェクト。

パートナー書店で子どもたちに贈りたい本を購入し、そのままレジでその本を寄付すると全国の子どもたちに「サンタクロースから本が届く」という、クリスマスシーズンに行う参加型の社会貢献プログラムです。
書店に足を運ぶのが難しい方のために、専用オンライン書店クラウドファンディングでも寄付が可能です。

 

※厳しい環境にいる子ども達とは…様々な事情で困難な状況(経済的理由、病気・入院、親子が死別、災害被害など)にいる子ども。

 

booksanta.charity-santa.com

 

クリスマスに子どもに本を寄付するこの活動。名前と活動内容は以前からなんとなく聞いたことがあったけど、参加しようと思ったことはなかった。平たく言うと、大して興味がなかった。
今年、企画の詳細を見てみようかなと思ったのは、発言に信頼を置いている複数のアカウントが「ブックサンタやりました」とツイートしていたからだ。今年もやったという人も、初めてやったという人もいた。
企画のTwitterやHPを見ると、COVID-19の影響もあって昨年今年とニーズ(本を受け取る家庭や施設)が増えており、12月24日の受付終了を前に、目標の6万冊までなかなか届いていないのだという。
この人が積極的に参加しているなら、私もやってみようかな。
そういう状況なら、私も少し寄付をしてみようかな。
そんなきっかけで、チャリティーへの参加を決めた。
参加している実店舗*1の中に、普段からよく行く、品揃えに信頼を置いている書店が入っていたことも大きい。

 

しかし、人に本を贈るのは易しいことではない。
親しい間柄なら好みや普段の読書傾向も分かっているだろうが、知らない子どもに本を贈るのってどうしたらいいんだ。何を選べばいいのだろう。
こちらはもうすっかり大人になってしまったし、身近に子供がいるわけでもない身だ。ともすると「この本を読んで感動してほしい」とか「励まされてほしい」みたいな押しつけがましい選書をしていまいそうで、尻込みしてしまう。
そんな危惧は、これまでこの企画に参加しなかった理由のひとつでもあった。
この企画にはもともと「大して興味がなかった」と言ったけど、参加してこなかったのはそれだけが理由ではない。知らない子供に本を選ぶなんて、すごく責任重大でとても引き受けられない、手を出すのはやめておこう、そんな考えがあった。
相手は知らない子ども、それもおそらく、年に何冊も自分だけの本を手に入れることはできない子どもだ。年に一度のプレゼントにふさわしい本を、どうやったら選べるだろう。
寄付をするって決めたはいいけど、何をどうやって、と迷いながら専用オンライン書店の書籍リストを一冊ずつ確かめていった。
ブックサンタの寄付にはいくつかの方法があって、「店舗で購入」のほかにも「専用オンライン書店で購入」ができる。オンライン書店では、年齢区分(乳児・幼児・小学生・中高生)に応じて数十冊ずつの書籍リストが公開されていて、そこから選んで購入するしくみだ。
リストには、馴染みのある定番の本だけでなく、私が読んだことのないごく最近の本もラインナップされていた。

 

私自身は子どもの頃に何を読んできたっけ、どんな本をもらうと嬉しかったっけ。オンライン書店のリストを見ながら、昔のことを思い出していた。
思えば、幼少の頃から書籍には不自由せずに育ってきた。
小学校低学年まで海外暮らしをしていたから、日本語の本はなかなか手に入らない環境だったけど、日本から祖父母が児童雑誌や図鑑を送ってくれたり、一時帰国や海外旅行*2の度に、両親はずいぶん児童書を買い与えてくれた。
帰国してからも、毎週末近所の図書館に通っては、借りた本を読みながら二宮金次郎スタイルで家へ帰るのが常だった。
よく本を送ってくれる年上の文通相手もいて、帰国後の私の読書経験は、図書館と並んでこの「ご本のおばさま」に支えられていたところがかなり大きい。

 

おばさまはもともと祖母のお弟子さんで、私の住むところからは遠く離れた関西の、美しい名前の街に暮らす女性だった。
きっかけをはっきりとは覚えていないし、今となっては祖母も故人なので確かめようもないのだが、最初はおばさまから祖母宅に「お嬢さんへ」と本を送ってくれて、私がそれに感想とお礼の手紙を送ってから、直接のやりとりをするようになったのだったと思う。
数か月に一度、ニ〜三冊の児童書を送ってくれるおばさまには、頂いた本の感想の他にも、学校のできごととか祖母とのエピソードを手紙に書いて送っていた。
おばさまは時々きれいなレターセットも送ってくれて、それで返事を書くのも、私には特別なイベントに感じられてなんだか楽しかった。
送ってくれる本のラインナップは、海外文学が多かった。ハードカバーもあったし、岩波少年文庫もよく選んでくれていた。
そうして読んだ本のことは、タイトルや表紙まで、大人になった今でもよく覚えている。繰り返し読んだから、フレーズを覚えているものも少なくない。
私が中学受験をするのであまり本を読む時間も取れなくなって、おばさまとの文通もやがて途絶えてしまったのだけど、幼児期の読書だけでなく、おばさまに支えられた小学校中学年~高学年のこの読書経験も、私の血肉となっている実感がある。
「小学生の頃に読んだ本」といって思い出すものの多くが、こうして送ってもらった本だ。

 

ブックサンタ受付期間の最後の週末、何を買うかは結局決められないまま、参加店舗に足を運んだ。
オンライン書店のリストをのぞきつつ児童書コーナーを見て回ると、最近の売れ筋とおぼしき新しい本や、角川つばさ文庫集英社みらい文庫といった昔はなかったレーベル*3が多くを占める中に、昔ながらの定番の本も並んでいた。
児童書コーナーはともかく、絵本コーナーに立ち入るのはたぶん人生で初めてだった。絵本ってこういう風に売られているんだ。

Q. どんな本を選べば良いですか?
あなたが贈りたいと選んだ本であれば、どんなものでもかまいません。全体の集まり具合としては、幼児向け絵本が多く寄付されるので、小学生以上向けの児童書や中高生向けの本が不足することが多いです。

Q. シリーズ本・上下巻の本を寄付してもいいですか?

基本的には1人1冊でプレゼントしますが、上下巻で寄付されたものは合わせて届けるようにしています。しかしながら、1巻完結している本のほうが運営上の観点からは助かります。また、シリーズものに関しては、対象となる子ども(家庭)は続きを読みたくなっても準備するのが難しい場合があります。

公式のQ&Aにはこのようにあったので、これを念頭におきつつ、あまり受け取る人を選ばないような内容の本を探す。
売り場にはおばさまから送ってもらって読んだ本もいくつか並んでいて、今更ながら「おばさまは当時いったいどうやって本を選んでいたんだろう」と不思議に思う。
あの頃は、送ってもらうことのありがたさこそ感じていたけど、選ぶことの難しさなんて考えたこともなかった。
書店の一角を何周もぐるぐる歩いて、選んだのは結局、自分もよく読んだ4冊と、星新一なら間違いないでしょうということで1冊。

 

赤ちゃんにおくる絵本1
ISBN: 978-4-924-71029-0
作・絵:とだ こうしろう/詩:のろさかん/戸田デザイン研究室

エルマーのぼうけん
作・絵:ルース・スタイルス・ガネット/訳:わたなべしげお/福音館書店
ISBN:978-4-8340-0013-9

きまぐれロボット
作:星新一/絵:和田誠理論社
ISBN:978-4-652-00504-0

ずーっとずっとだいすきだよ
作・絵:ハンス・ウィルヘルム/訳:久山太市/評論社
ISBN: 978-4-566-00276-0

 

時間をかけて本を選んで、分かったことがいくつかある。
両親に買い与えられた本や、おばさまから送ってもらった本が、自分の子ども時代の思い出のかなり重要な位置にあること。
幼少期に繰り返し読んだ本は、大人になっても記憶に残ること。
人に贈る本を選ぶのは簡単じゃないこと。
今年ブックサンタに参加するまで気づかなかった。

誰かの「ご本のおばさま」になろうだなんて大それたことは思わないけど、社会の一員として、少しだけど自由に使えるお金のある大人として、見知らぬどこかの子どもにプレゼントができるなら、とにかくそれでいい。
「厳しい状況に置かれている全国の子どもたち」の背景にある社会問題について考えると、気が遠くなりそうだし、現状のいろんなことへの憤りも抱くし、やらなきゃいけないことが果てしなくあるのを感じる。だけどもとにかく今年、プレゼントを手にできる子どもがいくらかでも増えるなら、まずはそれでいい。
もうすぐ今年のクリスマスも終わる。「ご本のおばさま」にはなれないけれど、私も今年、どこかの子どもにとってのサンタのお手伝いくらいはできただろうか。

*1:企画に参加している書店では、購入時にレジで「ブックサンタで」と言えば買った本をそのまま寄付に回してもらえる。実店舗の他にも、専用サイトからオンラインで本を選んで買ったり、クラファンサイトから本のチョイスはお任せで寄付することもできる。

*2:住んでいた国にも日本の書店はあったけど、周辺の別の国の方が大型店舗があったし、通貨の関係で値段も安かった。

*3:私が子どもの頃は、児童向けレーベルといえば青い鳥文庫が圧倒的王者だった。少し年齢層が低いところではフォア文庫、海外文学中心だと岩波少年文庫。やや渋めのラインナップの偕成社文庫も私は好きだった。

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